2021.01.22 /
多汗症・腋臭症

分類とその原因

 体温調節のために必要とする量を大きく上回る量の発汗が認められる場合を多汗症とよびます。感染症、内分泌代謝異常、神経疾患などの全身性の病気などの他の病気を原因とした二次性多汗症と明らかな原因がないのに過剰な汗がでる原発性多汗症に分けられます。原発性多汗症の原因ははっきりと解明されたわけではありませんが、脳内の何らかの異常により、発汗を促す交感神経が人よりも興奮しやすくなっているのではないかと考えられています。
 それに対して腋窩の汗が臭うことを腋臭症といいます。人の汗腺にはエクリン線とアポクリン腺よばれるものがあり、エクリン線はほぼ全身に存在しますが、アポクリン線は腋窩や外陰部に多く存在します。アポクリン腺の汗の中に含まれる脂肪酸が皮膚の細菌に分解されることによりにおいを発するとされています。

 多汗症は、原因がある場合(二次性多汗症)にはまず原因疾患の治療を優先させます。感染症、甲状腺機能亢進症、内分泌代謝異常症、神経疾患や薬剤性の全身性多汗症などがありますが、ここでは割愛します。原発性局所多汗症に対しては近年新しい薬剤が保険適応されたことで、治療戦略が大きく変化してきました。

原発性腋窩多汗症

 原発性局所多汗症診療ガイドライン 2023 年改訂版の多汗症診療アルゴリズムでは、外用抗コリン剤(エクロックゲル®、ラピフォートワイプ®)がファーストチョイスとされています。その他、内服抗コリン薬や重度の腋窩多汗症に対してはボトックスⓇも保険適応されています。

・エクロック®ゲル5%
 2020年11月、原発性腋窩多汗症治療剤「エクロック®ゲル5%」が新発売されました。この薬は、神経伝達物質であるアセチルコリンの作用を阻害する抗コリン剤に分類される日本初の原発性腋窩多汗症用の外用剤です。アセチルコリンはムスカリン受容体と結合することにより、汗腺から発汗を誘発すると考えられており、この外用剤の成分が多汗症の原因となるエクリン汗腺のムスカリン受容体と結合することでアセチルコリンの結合を阻害し、発汗を抑制します。1日1回の両腋窩への塗布で効果が期待できます。12歳から使用できます
 ※2023年6月1日ツイストボトルが追加されました。容器の吐出⾯から直接外用できるようになったことで、薬液に触れることなく、より安全性が高まりました。サイズも小さくなり、携帯性も便利になっています。

・ラピフォートワイプ®
 2022年5月23日、原発性腋窩多汗症治療薬「ラピフォートワイプ®」が新発売されました。
 ラピフォートワイプ®は1日1回毎日の使用で、有効成分であるグリコピロニウムトシル酸塩水和物が、神経からの汗をだす指令をブロックすることで過剰な脇汗を抑え、日常生活の困りごとを減らすことが期待できます。9歳から使用できます

原発性手掌多汗症

 原発性手掌多汗症に対して、日本初の抗コリン外用剤アポハイドローション®が発売されました。今回の原発性局所多汗症診療ガイドライン 2023 年改訂版には間に合わず、収載されませんでしたが、おそらく次の改定では原発性手掌多汗症治療のファーストチョイスになると思われます。
 現時点では塩化アルミニウムを外用することで汗自体を減らしたり、イオン導入(イオントフォレーシス)を行ったり、ボトックス®を局注することもガイドラインにて推奨されていますが、塩化アルミニウムとボトックス®には保険適応がありません
 その他、交感神経ブロックや腋の下の皮膚を数㎜切開して内視鏡下に神経節を切断する交感神経遮断術も保険適応されていますが、当院では行っていません。一般的に胸部外科等で行われる手術です。

・アポハイドローション20%(有効成分:オキシブチニン塩酸塩)
 2023年3月、日本初の保険適用の原発性手掌多汗症治療薬として2023年6月1日発売されました。エクリン汗腺にあるムスカリン受容体に対して抗コリン作用により発汗を抑制します。1日1回、就寝前に適量を両手掌全体に塗布して使用する外用薬です。
 ※2024年6月1日から処方制限が解除されました。
みんなの手の汗サイト|手汗のお悩み解決情報サイト|久光製薬 (hisamitsu.co.jp)

塩化アルミニウム 
 自費にはなりますが、手掌・足底・腋窩の多汗症に対して、院内製剤を用意しています。塩化アルミニウムが溶解した水溶液を直接塗布することで汗の出口(汗腺)に蓋をし、汗が出てこないようにする方法です。長期間に使用することで、徐々に汗腺自体の数が減少するとされています。腋窩用に20%、手足用に40%を用意していますが、多少かぶれやすいのが難点です。

腋臭症

 汗(皮脂)と細菌が臭いの原因ですので、まずは生活習慣の指導から行います。喫煙をやめ、こまめにシャワーを浴び局所を清潔に保つなど生活習慣を整えたり、野菜中心の食事にしたりすることで一定の効果が得られます。その他、塩化アルミニウムを外用したり、イオン導入(イオントフォレーシス)を行ったりすることで汗自体を減らすことが結果として臭いの減少につながります。さらにレーザーにより腋毛の脱毛を行うことで、蒸れを解消し細菌の増殖を抑えることも臭いの減少に期待できます。

 重度の腋臭症に対しては、わきの下の皮膚をしわに沿って数㎝切開し、皮膚を裏返してアポクリン腺の分布している層を直視下に剪刀(せんとう)で切除する方法が最もよく行われています。直視下にかつ物理的に汗腺を切除しますので、9割以上の臭いは減少します。手術は局所麻酔で行い、片側で45分程度です。
 合併症として皮膚の下に血腫を形成することが一番多く上げられ、その予防のために、手術後は大きなガーゼを創部にあてる固定法や日常生活での一定の制限が必要になります。その他、汗腺と毛根はほぼ同じ層に存在していますので、手術により腋毛が多少減少しますが、人によってはむしろメリットかもしれません。

 ※合併症の予防と日常の生活(入浴など)における制限のため、片方ずつ、秋~冬場にかけての手術をお勧めしています。手術による効果は半永久的であり、傷跡もしわにそって目立ちにくくなりますので、根治的な治療を希望される方にはお勧めです。保険が適応されますので安心して治療が受けられます。

 多汗や臭いによって人知れず悩んだり、生活に支障をきたしたりしている方が世の中には多くみられます。少しでも気になる方は気軽に相談してみましょう。
※保険が適応されない治療も一部含まれますので、詳細は医師にご確認ください。

関連サイト

ワキ汗の情報・サポートサイト ワキ汗治療ナビ