2021.01.22 /
けが・傷あと

ケロイド、色素沈着

moist wound healing

 ある一定の深さ以上に一度ついてしまった傷は、誰がどんな高度な治療をしても残念ながら消すことはできません。しかしながら、できるだけ早く、きれいに治すことが傷あとを目立ちにくくするために重要です。以前は傷に対して消毒をし、ガーゼを当てることが一般的でしたが、最近では傷はきれいに洗って、乾かさない(moist wound healing)というのが形成外科では常識になっています。人間の身体のほとんどは水分ですので、ガーゼを当てて乾かすと傷口の細胞が死んでしまうのです。切った野菜や果物を保存するときにラップをするように、傷口を適度な湿度に保つことで細胞をみずみずしく保つことができ、結果として早くきれいに治ります。傷口から染み出す“しる”の中には傷を治すために重要な細胞が含まれており、傷が自分で治ろうとするのに適切な環境を整えてあげることが傷を早くきれいに治すために一番重要なことなのです。また消毒を行うと傷口が染みますが、実は細菌のみならず、自分の細胞を傷つけていることに他なりません。

縫合

 縫合が必要な場合でも、まずは傷口をよく洗います。その上で特殊な技術を用いて傷を綺麗に密着させて縫合します。傷の状態に応じて、筋肉、皮下組織、真皮をそれぞれ層を合わせて吸収糸(溶ける糸)で縫合し、最後に表面の皮膚を縫合します。表面はアレルギー反応を起こしにくいナイロンの糸で縫合しますので、抜糸が必要です。そうすることで、感染も起こさず、より目立ちにくい傷あとにすることが可能です。

抜糸後のケア

 傷が治った後(抜糸後)も実際には皮膚の下では炎症が継続しています。傷が治った後(抜糸後)2~3か月目にそのピークが現れます。その期間適切なケアが行われないと、せっかく適切な初期治療が行われても、肥厚性瘢痕やケロイドを生じてしまうこともあります。傷が治った後(抜糸後)、炎症を少しでも抑えるため、またはその期間を短くするため、傷あとにテープを貼付したり、保湿、遮光を行ったりすることを指導します。特に肩と胸は傷跡が目立ちやすくなる(ケロイドになりやすい)場所とされています。その場合には抜糸直後から予防的に内服や外用をお勧めする場合もあります。

 それでも万が一目立つ傷あとが残ってしまった場合には、内服や外用に加えて注射や再手術も検討します。

傷あと修正

 傷あとを一旦切りなおして特殊な方法で傷を再縫合したり、皮弁と呼ばれる方法で傷の向きを変えて傷の緊張を減弱したりすることで目立ちにくい傷あとにします。

 他院にて加療され目立つ傷あとが残った方、古い傷あとが気になる方、帝王切開の傷あとが気になる方も、遠慮なくご相談ください。 けがをしたら、傷を治すことだけを目的とするのではなく、よりきれいに治すことがこれからのスタンダードです。